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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2402号 判決 1975年10月28日

第一審原告

岩波幸雄

外一一二名

右代理人

内藤功

外一名

第一審原告

鵜沼輝海

第一審被告

財団法人日本貨物検数協会

右代表者

関谷鏗爾

右代理人

伊能幹一

外二名

主文

第一審原告ら(別紙当事者目録の原告番号70、73、77、78、80、81、84、88、97ないし100、108、116119、126に記載の第一審原告ら)及び第一審被告の本件各控訴を棄却する(但し、原判決主文第一項に引用された除度において原判決添付請求金額合計一覧表中原告番号35の氏名、金員を「古田晶子二二円、吉田弘義二二円、吉田哲也二二円」と変更する。)。

控訴費用は、第一項に記載の第一審原告らと第一審被告との間においては、同第一審原告らの負担ととし、第一審被告とその余の第一審原告らとの間においては、第一審被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一各第一審原告と第一審被告との労働契約の締結

第一審被告が、船積貨物の積み込みまたは陸揚げを行なうに際してする貨物の個数の計算または受け渡しの証明(検数業務)および輸入穀物等の重量検査、輸入木材の材積算出(検量業務)を業とする社団法人であること、第一審原告らのうち別紙当事者目録の原告番号1ないし8、10ないし16、18、19、21ないし33、35、ないし48、50ないし57、59ないし6971、72、74、75、79、82、83、89、93、ないし96、101、102、104ないし107、110、111、113、115、117、118、121ないし124、128、129、9に記載の第一審原告ら(別紙当事者目録の原告番号35に関しては吉田晶子、吉田弘義、吉田哲也ではなく、当群の原告吉田良雄を指す。以下、「第一群の第一審原告ら」という。)が、もと協和検数株式会社(旧商号東都検数株式会社、以下、「協和検数」という。)の従業員であり、昭和四一年三月三一日協和検数が解散したのち、同年四月一日第一審被告の従業員として採用されたこと、別紙当事者目録記載の第一審原告らのうちの第一群の第一審原告らを除くその余の第一審原告らすなわち別紙当事者目録の第一審原告番号70、73、77、78、80、81、84、88、97ないし100、108、116、119、126に記載の第一審原告ら一六名(以下、「第二群の第一審原告ら」という。)がいずれも昭和四二年六月一日以降第一審被告の従業員として採用されたものであること、第一群および第二群の第一審原告らのうち別紙当事者目録原告番号61に記載の松下桂子が事務員であり、その他の第一審原告らがいずれも検数員であること、

以上の事実は、当事者間に争いがないから、第一群または第二群の第一審原告らに属する各第一審原告と第一審被告とはそれぞれその採用の際労働契約を締結していると認められる。

二昭和四二年六月一日前の第一群の各第一審被告との間の賃金計算方法

1  第一審被告協会において、昭和四二年六月一日前には、昭和三七年六月一日改正された旧就業規則及びこれと一体をなす給与規定が施行されていたこと、これらによれば、従業員の給与は月極めで、原則として月給制であつたことは、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、前記就業規則五二条は、賃金計算につき「給与に関しては別に定める給与規定による。」と規定し、前記給与規定二条一項は、右五二条を承けて、「給料は原則として月給制とする。ただし、日給者の欠勤日数に対しては給料を支払わない。」旨規定し、同じく前記給与規定六条は、「新たに雇入れられた従業員の給与は発令の当日から日割計算で支払う。」旨規定し、おそくとも昭和四一年四月当時以降前記原則に対する例外として第一審被告従業員中臨時検数員、傭員については日給制を採り、傭員のみについては昭和四二年六月一日以降毎月一定額の基本給に所定の日額を上乗せすることとしていたことが認められる。

2 第一審被告において昭和四二年六月一日前に行われていた1に前記した旧就業規則及びこれと一体をなす給与規定のうちには遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に賃金を差し引く旨を定めた規定のないこと、第一群に属する第一審原告らが前叙のように昭和四一年四月一日に第一審被告に従業員として採用された後、右第一審原告らが所属していた全日本港湾労働組合関東地方東京支部(以下、「全港湾東京支部」という。)と第一審被告とは右第一審原告らの給与組替えにつき同年六月七日付で協定を締結し、第一審被告は右第一審原告らに対し同年四月一日当時間被告協会内で施行されていた旧就業規制、給与規定を含む諸規定および給与制度を同日に遡つて適用し、全港湾東京支部はこれを承認する旨約したことはいずれも当事者間に争いがない。

3 <証拠>によれば、第一審被告協会においては、病休、組合休、その他届出、無届の欠勤をあわせ欠勤人員の労働人員(昭和三六年一、五三六人、昭和四二年二、七九六人)中に占める一日平均の百分率は、昭和三六年4.88%、同三七年5.22%、同三八年4.92%、同三九年5.30%、同四〇年5.20%、同四一年4.90%、同四二年4.47%で、連年一日平均4.47%ないし5.30%に及ぶ欠勤者があつたことが認められるが、第一審被告が昭和一七年以来昭和四二年五月まで遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)により賃金を控除したことがないこと、第一群の第一審原告らに対しても昭和四一年四月一日から同四二年五月末日まで遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)により賃金を控除したことがないことは、当事者間に争いがない。

以上の事実関係のもとにおいて、第一群の第一審原告らのうち、第一審原告松下桂子が傭員であり、その余の各第一審原告が臨時検数員であるとの主張立証がなく、特別の事情が認められない本件においては、第一審被告と第一群の各第一審原告との間では、おそくとも昭和四二年五月末日当時労働契約上の賃金は月給として計算される定めであり、また、労働者の自己都合による遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があり、債務の本旨に従つた労務の提供がなかつた場合にも、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に提供のなかつた労務に対応する賃金部分を控除することをしない(当該部分の賃金が不発生であると構成するとすれば債務不提供により減縮した賃金額に減縮賃金部分相当額の手当を加算した額を賃金として計算することとなる)定めであつたと推認すべきである。第一審被告は、同被告が遅刻、早退、欠勤(組合休による場合を含む。)により賃金を差し引かなかつた理由は、労使間に、従業員側では使用者がその経営事情から労働基準法所定の計算方法によつた場合より金額の下回る時間外賃金を支払うことを認め、その代りとして使用者側では従業員に遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があつても作業の正常な運営に支障を来す程度が少ない限り賃金の控除をしない旨の了解があつたからであつて、労働契約上、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に賃金を差し引かないで計算される定めであつたのではないと主張する。なるほど<証拠>によれば、昭和二六年五月第一審被告は、当時の同被告従業員の代表組織である全日本港湾労働組合日本貨物検数東京支部労働組合との間で従業員の給与ベースを一万四、四二〇円と協定する際、時間外賃金の計算基準につき労基法三七条によることなく本人給と技能給との合計額の五割を基準額とすることにしたこと、その趣旨は、労働者の生活安定のためには固定賃金を引き上げるべきであるが、夜間作業が重要な部分を占める検数業では、時間外賃金が賃金の主要部分を占め、固定賃金引き上げの結果は、大幅な時間外賃金の増加をきたすので、労基法所定の計算方法により算出した額を下回る時間外賃金を支払うことを従業員側に了解させることにより第一審被告協会の経営が危殆に陥ることを避けるにあつたこと、これに対し協会側では従業員の遅刻、早退、欠勤(組合休を否む。)があつても賃金を差し引き計算せず、厳密にいえば、その時間も勤務したものとして賃金を支払う旨の了解が労使双方の間にできたこと、もつとも、時間外賃金の割増基準については労働基準監督署の是正勧告を受けたこともあつて、昭和四〇年五月下旬労基法所定の計算方法により算出した時間外賃金を支払う取扱いに改められたことが認められる。しかし、<証拠>によれば、昭和一七年第一審被告協会設立当初から従業員に遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)のあつたことが推認され、労使間に前記了解ができたのは、はるか後である昭和二六年であり、その後も昭和三六年から昭和四二年まで連年一日平均従業員中四ないし五%が遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)としているにもかかわらず、第一審被告がそのため賃金を差し引いて計算した例が当初からなかつたことは前叙のとおりであり、しかも、この間昭和四〇年五月には既に時間外賃金の割増基準も労基法所定の計算方法によることに改められているのである。さすれば、時間外賃金の計算方法が労働基準法所定のとおり改められれば、賃金差引計算をしない取扱いも当然これとともに廃止されるべき了解であつたとみることはできない。かえつて、<証拠>によれば、第一審被告協会における月給制は主として検数労働者の社会的地位の向上を図るため同協会の設立とともに採用された制度であり、一か月を超える欠勤またはこれと同程度に業務の正常な運営に支障を生じない限り賃金の差し引き計算をしないのがこの制度の趣旨、目的に沿うものとして関係者に理解、運用されてきたこと、第一群の第一審原告らが第一審被告に従業員として採用された後もその月給制の内容はそのようなものとして当事者に理解運用されていたことが認められるから、第一審被告の右主張は採用することができない。

さらに、第一審被告は、同被告が全港湾東京支部との昭和四一年六月七日協定を締結するに至つた協議の過程において、同支部に対し同被告と日本検数労働組合(以下、「日検労」という。)との間に、将来就業規則を改正して遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)等による賃金差し引きをする旨了解ができていると述べたと主張し、<証拠>によれば、当時第一群の第一審原告らと給与組替えの交渉に当つた第一審被告総務部次長山本正広は、第一群の第一審原告らを代表する岩波幸雄に対し「今のところは遅刻、早退、欠勤につき賃金控除をしないけれども、就業規則を改定して賃金を差し引くようにする準備中である。」と告げたことが認められる。<証拠判断省略>しかし、第一審被告の旧就業規則および給与規定(賃金差し引きの規定のないもの)が第一群の第一審原告らに対して昭和四一年四月一日に遡つて適用されることになつたことはさきに認定したとおりであり、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)による賃金差し引きを前提として給与組替の合意が結ばれたと認めるだけの証拠はないから、遅刻、早退、欠勤につき賃金差し引きを準備中であるとの発言があつたからといつて、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に賃金を差し引かないで計算する定めではなかつたとはいえない。

さすれば、第一群の各第一審原告と第一審被告との間ではおそくとも昭和四二年五月末日当時、労働契約上の賃金は月給として計算される定めであり、かつ、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に賃金を差し引かないで計算される定めであつたといわなければならない。

三第一群の各第一審原告と第一審被告との間の昭和四二年六月一日前の賃金計算方法はその後変更されたか。

1  就業規則および給与規定の改訂

第一審被告が旧就業規則改訂案およびこれと一体をなす給与規定案を作成し、これにつき同被告協会従業員所属の労働組合である日検労と全港湾東京支部の意見を徴し、日検労からは昭和四二年四月五日付で、全港湾東京支部からは同月二〇日付で各意見書の送付を受け、就業規則、給与規定につきそれぞれ経営協議会での協議を経たうえ、昭和四二年六月一日、就業規則を改訂し、新規則を施行すると同時に給与規定をも改訂し、新規定を施行したこと、欠勤の場合無届欠勤のときには一日につき本給の二五分の一を、届出欠勤のときには一日つき本給の五〇分の一を減額し、但し、休務を必要とする診断書を提出したときには本給の五〇分の一を減額し同額の病休扶助を支給する旨の賃金計算規定が新就業規則付属の新給与規定中に定められ、遅刻、早退、欠勤の場合につき新就業規則二八条には「遅刻・早退するときにはその時間を不就業として取り扱う。」と規定され、新給与規定三四条には「遅刻・早退は、所定の方法により、その不就労時間に当たる本給を控除する。」と規定され、新給与規定三〇条三項には「月極め賃金につき日割計算の必要を生じたときには別に定める場合のほかは当該手当を二五日で除した額をもつて日額とする。」と規定されたこと、新給与規定三四条にいう「所定の方法」とは次のとおりの内容であること、すなわち 「遅刻について、始業時(午前七時三〇分―〇七三〇、以下、時間の表示は同じ要領による。―)より一〇分間(〇七四〇まで)は、遅刻扱いとはするが、この間に出勤すれば賃金を控除することはせず、〇七四一―〇七五〇に出勤した者には〇七三〇―〇七四〇の十分を、〇七五一―〇八〇〇に出勤した者には〇七三〇―〇七五〇の二〇分を、〇八〇一―〇八一〇に出勤した者には〇七三〇―〇八〇〇の三〇分を各控除対象とし、〇八一一以降に出勤した者についても右に準じて控除対象時分を算出し、右の方法で日々記録した控除対象時分を賃金締切期に月間集計して三〇分単位に賃金を差き引き端数を切り捨てるものとする。早退による不就業時間の賃金控除は一時間当りの単価を本給の四〇〇分の一とする。」以上、「所定の方法」の内容を第一審被告が新就業規則および新給与規定実施と同時に同被告協会事務所に掲示したこと、

右の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  改訂された就業規則(新就業規則)、給与規定(新給与規定)の施行に伴い第一群の各第一審原告(昭和四二年六月一日前に採用された者)と第一審被告との間の賃金計算方法は変更されたか。

労基法九三条は、労働契約上の労働条件が就業規則で定める基準に達しないときには、労働契約のその労働条件を定める部分を無効とし、無効となつた部分は就業規則で定める基準によると定めている。もし、第一群の各第一審被告との昭和四二年六月一日前の労働契約上の労働条件が改訂された就業規則に定める基準に達しなければ、第一審被告協会の事業場に使用される労働者側の同意の有無にかかわらず、改訂された就業規則に定める基準によつて昭和四二年六月一日前の労働契約上の労働条件は引き下げられることとなつたであろう。

前記1の改訂された就業規則ならびにこれと一体をなす改訂された給与規定およびその三四条にいう「所定の方法」の内容を示した掲示の各記載をあわせれば、改訂された就業規則、給与規定のもとでの第一群の各第一審原告らの賃金計算方法は、賃金は月極め賃金であるが、賃金締切初期ごとに、欠勤の場合には不就労一日につき無届のときには本給の二五分の一を、届出欠勤のときにも本給の五〇の分の一を減額され、遅刻の場合には、月極め手当の二五分の一を日額とし、最後の一〇分未満の端数を切り捨てた控除対象遅刻時分を三〇分単位に月間集計し端数を切り捨て、よつて得た集計遅刻時間に応じて減額され、また早退の場合には一時間につき本給の四〇〇分の一を減額されることとなることが認められる。これを前記二の昭和四二年六月一日前の賃金計算方法と対比すれば、改訂された賃金計算方法は、「月給制」すなわち賃金の支払時期を示す意味においてではなく、賃金の計算基準を示す意味で、「手当、本給が一月を単位として定められ、休日、休暇、欠勤、遅刻または早退の場合でも不就労の労働日について賃金を差し引かれない」制度という意味での月給制を、日給月給制すなわち「本給が一日を単位として定められた日給のたとえば二五倍の額で月により定められ、遅刻、欠勤等の不就労日の取扱いは月給者に準ずるものと日給者に準ずるものとがある」制度のうち「不就労日の賃金計算方法を日給者についてそれに準ずる日給月給制」に改め、あらたに、遅刻、早退によるそれぞれ一定の割合の賃金の当然減縮を加えたものであつて、継続的契約関係において通常の労働者につき遅刻・欠勤・早退が免れ難いことを思えば、改訂された就業規則、給与規定等所定の賃金算定方法による賃金額は、すくなくとも第一群の第一審原告らについては昭和四二年六月一日前の賃金算定方法による賃金額を下廻るものであり、第一群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約所定の賃金が改訂された就業規則、給与規定の定める賃金の基準に達しないとはいえない。したがつて、第一群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の労働条件が改訂された就業規則の定める基準に達しないとして、改訂就業規則の施行とともに賃金計算方法が変更されたということはできない。

就業規則は、使用者が一方的に変更し得るものである。しかし、それがその使用者の経営する事業場に使用される労働者の労働契約上の既得権を奪うものである場合には、その内容である労働条件の変更にその労働者の所属する労働組合が同意すると否とを問わず、その労働者が同意しないときには、右就業規則の変更が行われてもその労働者の既得権は奪われない。これに反し、就業規則が、事業場に使用される労働者の労働条件を労働者の不利益に変更する内容のものである場合にはその不利益変更にその労働者が同意しなくてもその所属する労働組合が労働契約を締結して同意するときには右労働者は就業規則に効力の優先する協約が締結されたことにより新しい不利益な労働条件を甘受しなければならないと解する余地はあろう。そしてこれを本件について見るのに、労働契約上の賃金計算方法が遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)により減額しない月給制であることは、その月給の支払いを受けている労働者が既得の権利を有することを意味するものではなく、その労働者の労働条件の一部をなすに過ぎず、その労働者の属する労働組合がその組合員の労働条件の不利益変更に同意したときには、その労働者自身がこれに同意したときと同様月極め賃金の支払いを受けている労働者について労働契約上の賃金計算方法が不利益に変更されると解する余地がある。しかし、第一審被告において前記就業規則及びこれと一体をなす給与規定の各改訂につき第一群の各第一審原告及びその所属する労働組合の同意を得ていないことは当事者間に争いがなく、右の事実に弁論の全趣旨をあわせると、第一群の各第一審原告所属の労働組合が右就業規則、給与規定の改訂による労働条件の不利益変更に協約を締結することにより同意した事実はないと認められるから、本件は以上のように解釈すべき場合には該当しない。

労働者またはその所属する、労働組合の同意がないのに使用者が就業規則の一方的変更によつて労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきである。もつとも、労働条件の統一的かつ画一的な処理のため、たとえば、賃金締切期日が一か月二回であつたのを一回とするような賃金計算方法の変更などはそれが労使関係において合理的なものであるかぎり許される余地もあろう。しかし、賃金計算方法の変更であつても、継続的契約関係としての労働契約関係上、通常の労働者にとつて免かれ難い欠勤の場合に本給の減少を伴い、同じく遅刻の場合に原則として月極め手当の減少を伴い、同じく早退の場合に本給の減少を伴い、長期的に実質賃金の低下を生ずる本件のような賃金計算方法の変更は、労働条件のうちでも労使の利害が真向から対立する賃金額を左右するものであるから、たとえそれが使用者にとつて合理的にみえても、原則に立ちかえつて考え、許されないと解すべきである。そして、欠勤の場合、医師が休務を必要と認め、その旨の診断書が提出されたときにかぎつて、本給減額分と同額の病休扶助が支払われることがあわせて改訂された賃金支払方法の内容とされている本件についても、その理は異ならない。病休扶助は、本給と異なり、「臨時に支払われた賃金」(労基法一二条四項)であつて、「平均賃金」(同条一項)に算入されず、解雇手当(同法二〇条)、休業手当(同法二六条)、有給休暇の期間につき支払う賃金(同法三九条)計算の基礎とならないからである。いわゆる秋北バス事件についての最高裁昭和四三年一二月二五日大法廷判決民集二二巻一三号三四五九頁、三四六四頁、は新たに停年制を採用した改正就業規則の効力が争われた事案に関するものであるが、新たな停年制の採用が労働者にとつて不利益な変更といえるか否かの判断が留保されているから、必ずしも本件に適切であるとはいえない。

さすれば、改訂された就業規則、給与規定およびその三四条にいう「所定の方法」の内容を示す掲示の施行によつても第一群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の賃金計算方法は変更されず、ほかにこれが変更されたことの主張立証はないから、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があつても賃金を差し引かないという第一群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の賃金計算方法の定めは、依然として変更されていないといわなければならない。

四第二群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の賃金計算方法

民法五三六条一項は、特定書に関する物権の設定または移転以外の事項を目的とする双務契約につき当事者のいずれの責にも帰すべからざる理由により履行不能が生じた場合の危険を債務者に負担させる債務者主義の原則を採るから、別段の合意がない限り、労働契約上の月極め賃金を請求する権利も労務の給付が不能となつた部分に相応する部分だけ当然に縮減して発生しないのが原則であると解すべきである。ところが、第二群の各第一審原告がいずれも検数員であることは当事者間に争いがなく、右各第一審原告が臨時検数員であることの主張立証のない本件において、第二群の各第一審原告と第一審被告との間では労働契約上の賃金は、前認定に照らし、月極めで賃金の支払時期の意味における月給として支払われる定めであつたことが認められる。ところが、第二群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)により賃金「控除」、厳格には縮減した賃金不発生部分の差し引きをしない賃金計算方法の定めがあつたことを認めるだけの証拠はない。かえつて、改訂された就業規則、給与規定および同規定三四条にいう「所定の方法」の内容を示した掲示が昭和四二年六月一日から施行され、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)の場合には、原則として、賃金を「控除するように改められたことは前叙のとおりであり、第二群の各第一審原告が同日より後に第一審被告に従業員として採用されたことは当事者間に争がなく、第一審被告がその主張の当時期被告協会の事業場にその主張の賃金「控除」の所定の方法を掲示して従業員に周知させたことは前叙のとおりである。そして、<証拠>によれば、第一審被告は、第二群の各第一審原告を従業員として採用する際、改訂就業規則およびこれと一体をなす給与規定等を示して、これに従うことを第一審被告に対して契約する旨の契約書を提出させていたことが認められ、<証拠判断省略>。

第二群の第一審原告らは、旧就業規則を労働者側の同意なしに変更してその効力を生じないと主張するが、改訂就業規則の施行された後に採用され、その際右就業規則を示された従業員に改訂された就業規則が適用されるのは当然であるから、第二群の第一審原告らの右主張は採用できない。その他、改訂就業規則および給与規定を無効であると見る証拠はない。また、不就労時間に相当する賃金額の算出方法の合理性についての第一審被告の主張は、これを是認することができないではない。

さすれば、第二群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の賃金は、前叙したところから推してその労働者に遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があつた場合には、遅刻が始業時以降一〇分以内に止まるときを除き、月極め賃金から前叙第一審被告の主張の方式に従いいわゆる賃金控除が行われる定めであつたと認められるから、いわゆる控除部分は、月極め賃金中不就労時間に対応すると定められた約定不発生部分であると解するのが相当である。

五本件訴訟において各第一審原告が請求した金額といわゆる賃金控除部分との関係

第一審原告らが昭和四二年六月から昭和四四年九月までの間原判決添付請求金額内訳一覧表記載のとおり、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)としたほかは所定の勤務をしたこと、第一審原告らに右遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)がなかつたならば、原判決添付請求金額合計一覧表記載の金額が第一審原告らに支払わるべき金額であることは当事者間に争いがない。

さすれば、第一審各原告が請求した金額がいわゆる賃金控除分と対応していることもまた当事者間に争いがないわけである。

六昭和四二年六月一日前に第一審被告の従業員として採用された各第一審原告と第一審被告との間では、改訂就業規則、給与規定、右規定三四条にいう「所定の方法」の内容を示した掲示が施行された後も労働契約上の賃金計算方法の定めは変更されていないのであるから、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由にいわゆる賃金控除すなわち不就労時間に対応する月極め賃金部分の当然不発生扱いをされる筋合はなく、第一群の第一審原告ら中原告番号35吉田良雄が昭和四四年六月二二日に死亡し、同人の妻吉田晶子、長女弘美、長男哲也がその相続人となつたことは関係当事者間に争がなく、右三名は各相続分に応じ故良雄の「控除」分に相当する未払賃金債権六六円を二二円ずつ相続し、当審において右良雄の訴訟を承継したものであるから、第一審被告に対し第一群の右吉田良雄を除く各第一審原告がその「控除」分に相当する未払賃金を請求し、被控訴人吉田晶子、同吉田弘美、同吉田哲也がその相続した第一審原告吉田良雄の未払賃金二二円を請求する本件各請求はいずれも正当である。

しかし、昭和四二年六月一日以降に第一審被告の従業員として採用された第二群の各第一審原告と第一審被告との間では、改訂された就業規則、給与規定および右規定三四条にいう「所定の方法」の内容を示した掲示が施行された後に採用され、採用の際改訂就業規則、給与規定等を示された従業員が、その遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)により右就業規則、給与規定等の所定のいわゆる賃金中不就労時間に対応すると定められた不発生部分の支払を拒否されるべきことは当然であるから右控除分相当額を未払賃金として請求する第二群の各第一審原告の本件請求はいずれも失当である。

よつて、原審口頭弁論終結前、訴訟代理人がある間に死亡した第一審原告吉田良雄名義で、訴訟承継前の相続人吉田晶子、同吉田弘美、同吉田哲也三名が後に本件訴訟において請求した未払賃金合計額六六円の請求を、第一群の吉田良雄を除く各第一審原告の請求とともに認容した原判決は相当であつて、これに対する第一審被告の控訴は理由がなく、第二群の各第一審原告の請求を棄却した原判決は相当であつて、これに対する第二群の各第一審原告の控訴は理由がないから、第一審被告及び第二群の各第一審原告の本件各控訴を民訴法三八四条一項により棄却し(但し、当審における訴訟承継によつて、第一審判決が第一審原告に対して支払いを命じた未払賃金合計額は第一審被告から新当事者である被控訴人吉田晶子ら前記三名に対し均分してなされるべきものとなつたから、原判決主文第一項中関係部分を主文第一項括弧内但書のとおり変更することとする。)、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(吉岡進 園部秀信 兼子徹夫)

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